ホントは とじぇね

ホントは寂しがりやのシングルファザーが叫ぶ! 誰かに届け!誰かに響け!!

桜の美しさは子供には分からない

「めっちゃタイプです。今晩お付き合いください」

「別に今晩だけじゃなくてもかまいませんけど」

 

 

僕はこの時ほど『酒の力』に感謝し、そして恨んだことはない。

 

 

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通いなれた小料理屋にはコロナの影響が感じられない。普段と変わらない盛況ぶり。

自粛を求めるニュースは今朝も流れていたが、僕の住む街には感染者が1人のまま推移し、しばらく経過した現在も1人のまま。

市民や県民の自己管理の良さなのか、田舎ならではの非積極的行動性の成せる業なのか、とにかく僕の住む町は、世間が騒ぐほど危機的状況ではない。そのせいもあり、行きつけの小料理屋は今宵も変わらず賑わいのまま僕を向かい入れてくれた。

 

 

カウンターに座る僕の後ろ。小上がりには6人ほどの団体がいる。振りかえざるとも女性が複数いるのは声で分かる。店に入り際、隔てで隠れて見えなかっただけ。楽しそうだなと少し羨ましい。

 

席に着き右上のテレビを見ているだけでビールと通しが提供される。何とも心地いい瞬間。

コロナの景況で立て続けにスポーツイベントが中止になり観るものが無いと店主は嘆いている。確かに今映し出されているのは旅番組だ。

 

この店のテレビには、ほぼずっとスポーツが流されている。

勝負に拘り、技術・フィジカル・メンタルと、実に輪郭のはっきりした分かりやすく美しい駆け引きのみを見せてくれるスポーツというものは、日々の人間社会で疲れた心を一時忘れさせてくれる。

お酒を扱うお店ならではの人間模様の縮図のような会話を日々耳にする店主が、スポーツ番組を流し続け好む理由が理解できるような気がする。

 

 

「生2つお願いします」

後ろから注文の声が聞こえる。女性特有の周波数が温かく僕の心に響く。

最近はほとんど考えなくなってしまった、『問題』といえば問題事である僕の今後のことを思い出す。

このまま独り身を貫く覚悟があるわけでもなく、かといって『彼女』という存在をわずらわしく思う自分もいる。一番の困り事といえば、時折急に思い出したかのように『寂しさ』や『虚しさ』が体全体を覆ってしまうことがあるぐらい。

この時の感覚が消えないうちは『貫く覚悟』を固めることが出来ないと思っている。

 

 

 

ビール片手につまみを口に運びテレビを眺めて、一人で飲む僕への気遣いで店主の投げかけてくる話題に反応しながら、何となく聞き耳を立てて、後ろか聞こえてくるだけの心地よい周波数に自然と意識が向く。

何度目かの注文の周波数に、さりげなく後ろを振り向いてみた。綺麗な人だった。

一瞬目が合ってしまい互いにちょっそ笑みを作る。きっとアラフィフ。僕よりかなり年上だ。

 

 

自分が年齢を重ねて分かるようになったことがある。

『人間には持って生まれた容姿とは別の魅力がある』ということだ。具体的に説明するならば、『綺麗』や『かわいい』『カッコいい』といった一般的大多数が賛同する身体的特徴ではなくもっとトータル的な、醸し出すような、覆われているような『雰囲気』というもの。

このことはずっと昔から感じていた。年齢の離れた女性を素敵だと感じる事があり、でもそれは見た目とは違うとも理解していた。しかしそれが何なのか若かりし自分は説明できなかった。『フェロモンのマッチング』的感覚でしかなかった。しかし今は分かる。外見には内面も現れるということ。

『身だしなみ』『清潔感』『表情』『しぐさ』『言葉遣い』『抑揚』ざっと思いつくままに適当に上げてみた。とにかく言いたいのは全体的な『雰囲気』が魅力的に見えるということだ。端的に示すなら『味わいある人間』とも言えるかもしれない。

この魅力はある程度年齢を重ねないと表面に浮上してくることはない物だと思う。

人間として様々な経験をし、自分を律しながら生きてきて、何かしらの芯を心に持ち合わせる事ができた人じゃないと。

 

そういえば昔、女性からこんな話を聞いたことがある。「居酒屋で一人酒を飲む疲れたオジサンの背中が素敵に見える」と。今の僕には天使が舞い降りたような言葉だ。

このような『人間の味』が、年齢を重ねると出てくるのだと思う。

 

言い訳のように長々と説明してきたが、僕はとにかくその女性に魅力を感じた。外にはまだ咲いていない桜のような美しさを。

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先客である小上がりグループが会計を頼んだ。日本酒に切り替わり熱くなった僕の耳にあの周波数が宴の終わりを告げる。一瞬目が合ったあの笑顔が頭に浮かぶ。

かの有名な千利休はこう言った。『人生とは一期一会』

その意味を改めて考えていると、男性客の1人が店主に挨拶をし、ぞろぞろと店の外へ出て行った。タクシーを頼んだようで、先に着いた1台に男性陣が乗り込もうというのだ。

間もなく2台目が到着。出口戸のガラス越しにハザードランプの点滅が見える。

残る女性陣2人が席を立つ。丁寧に挨拶をし2人は出て行った。周波数の女性が最後に店の戸を閉める。すらっとしたいでたちに、シックな長いスカートが印象的。

その後ろ姿を見て僕は、弾けるように席を立った。

 

 

ガラガラと昭和な音を立てて引き戸を出ると、目の前にはタクシーに乗り込もうとするあの女性。

店のドアが開いたからだろう、そこから出てきた僕に振り返った。

「めっちゃタイプです。今晩お付き合いください」

「別に今晩だけじゃなくてもかまいませんけど」

 

 

自分でも意味不明な声の掛け方。先に乗り込んだもう一人の女性が不安そうに僕を見ている。

自分があまりにも突発的に行動したせいか、『無心』の境地で周波数の女性の反応を待った。彼女は乗り込もうとした体を戻し僕の目の前に立つ。

驚いたような困ったような表情をしてから、笑顔で僕に握手をしながらこう言った。

「嬉しいけど、こういうのは止めようね」

そう言いながら、握手した僕の手を反対の手で抓った。

 

 

 

走り去っていくタクシーを見えなくなるまで見送った。

春間近の夜風は火照った体に心地よくて。

『自分が行動しなければ何も始まらない』という僕の座右の銘がしっかりと心に刻み込まれているのだと嬉しくなったのに、振り返った店のドアの前に立っていた店主から「大事な客に何してくれてんだ!今日は帰れ!」と言われて、飲みかけの日本酒を取り上げられた。。。

 

 

 

酒は飲んでも飲まれるな!!!

 

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。