ホントは とじぇね

ホントは寂しがりやのシングルファザーが叫ぶ! 誰かに届け!誰かに響け!!

正さなくていい間違いもある  【中年男性の失恋】

互いにグラスを持ち上げ「お疲れっす」と乾杯し一口飲みほした後、「明日は早いから」と意味不明な事を田口さんは言った。

自分から誘っておいてそりゃないだろ・・・

 

 

 

数日前、久しぶりに仕事をお願いした。正確には4年ぶりだろうか。

田口さんとの付き合いは長いが、会社を変えてからは会う頻度が極端に減っていた。久しぶりに会った田口さんは明らかに痩せていて一瞬病気を疑ったぐらいだ。

今年で48歳になる田口さん。30代前半ですでに起業し、ここまで山あり谷ありの社長業だったのは知っている。どっしりと落ち着いていて声が低くて、独特のリズムで話す雰囲気はとても同年代とは思えない貫禄があった。

「痩せましたよね?」

僕の問いに鼻で笑う田口さん。十数年付き合った彼女と最近別れたのだそうだ。結婚を前提に付き合っていた彼女と。

離婚という痛手を負った僕には、田口さんの悲惨さを身に染みて感じる事ができた。ゆっくり話を聞きたいと提案したら日時を指定して飲みに誘ってくれたのが田口さんだった。

 

 

 

 

今シーズンの秋田の冬は雪が無く、クリスマスイブの今日はさぞかし繁華街も賑わっている事だろうと思っていたが、僕の想像は見事に崩れた。ネオンきらめく通りには人も少なく、カップルすら見当たらない。ディナーな時間にもかかわらず、予約無しでもすんなり店に入ることができた。

 

 

「適当に頼んでよ」とメニューを僕に渡した田口さんの目には力が無い。そりゃそうだろうな。昨年のイブは彼女と過ごしていただろうに。今年は僕のようなむさ苦しいおっさんと酒を飲むことになろうとは夢にも思わなかっただろう。

 

食欲が無いだろうと思い、少なめに頼んだ料理をつまみながら、本題に入るのをじっと待っていた。

昨年の売り上げが過去最低で生きた心地がしなかったが、今年は逆に調子が良すぎて銀行への返済が終わる見込み。会社創立以来、初の出来事だそうだ。

とても素晴らしいことなのにちっとも嬉しそうじゃない田口さん。男らしいがっちりとした骨格の頬がこけている。

「かなり痩せましたよね。何があったんですか」

辛すぎて話すに話せない様子の田口さんを見かねた僕が、防波堤を破壊する爆弾を投下した。

以下が田口さんの話の要約である。

 

起業間もないころに付き合い始めた彼女。金もなく仕事に明け暮れる毎日を支えてくれた人。約束の日には、どんなに遅く帰ろうが待っていてくれてご飯を一緒に食べてくれた。バツイチの彼女には子供がいて、やがてその両親も含めて家族ぐるみの関係に発展。会社も徐々に軌道に乗り、やがて結婚を意識し約束しあった。彼女の子供の大学の入学式に一緒に出席したりと、もう家族のような関係になっていた。今年は会社も順調で遂に借金が消えそうな予感。結婚は来年だと思っていた。そのやさき突然彼女から別れを告げられた。それが数か月前の出来事。

彼女と過ごした日々。自分の年齢。築き上げてきた両親や子供との関係。両者の友達との関係。長い時間をかけて積み上げてきたものが突然一気に無くなった。田口さんには仕事と彼女しかなかったのに、その半分を突然無くしてしまったのだ。

 

 

 

悲惨だなと思った。補えるものを見つける事ができない。

男にとって女とは人生のパワーの源であることは疑いようの無い事実。関係が彼女にまで発展しさらに長い時間を重ねる事ができた先に『結婚』まで誓い合えるほど強い絆で結ばれた関係は、そう簡単に解れるものじゃない。さらに互いの年齢を考えれば、田口さんは結婚前からすでに老後すら視野にいれた想いをもっていたはずだ。

「男って単純ね」と世の女性たちは皆言うけれど、男代表としてはっきりと伝えたい。「その通り」と。男自身は自分が単純だなんて思っちゃいない。複雑にロジカルに物事を考え行動しているつもりだ。しかし、いい女を見れば目で追い、近寄ってくる女にはワンチャンを狙い、しかし、惚れた女にはとことん純粋で責任を全うしようとする。それが男という生き物なのだ。

 

 

田口さんの話を聞いていて不思議に思った。彼女はどうして突然別れを告げたのか。大学生の子供がいる彼女だってもうすでに『いい歳』のはずなのに。

純粋にその質問を投げかけたとたん、田口さんの顔色が変わった。驚くことにその彼女はもうすぐ結婚するというのだ。別れを告げられてからまだ数か月しか経っていないのに。「浮気だろ」と顔を歪めて悔しそうに田口さんは言う。

 

 

 

彼女と幸せになる為に田口さんは必死に会社を軌道に乗せようとした。昼夜を問わず働いた。結婚するために借金を消そうとした。田口さんにとって彼女との幸せをつかむための最重要課題は『会社』にあったのだ。だから、だからその会社を安定させるために必死で働いた。たとえ彼女との時間が取れなくても。会えない日々が続こうとも。田口さんは『今』ではなく『未来』を見据えていたから。彼女の未来の責任さえも全うしようと思っていた。そして何より田口さんは彼女に絶対の信頼をよせていた。信じていた。互いに同じ気持ちなのだと。

その想いが見事に砕け散った。

 

 

『男って単純ね』

単純で何にが悪い。惚れた女のために必死になることの何が悪い。

たしかに田口さんは彼女の欲するものを疎かにしたのかもしれない。『一緒に過ごす時間』をないがしろにした部分はあったのかもしれない。でも間違いなく、疑いようもなく田口さんは彼女を強く想っていた。僕の目の前に座り、病的に痩せた体を椅子にもたれさせた田口さんが全てを物語っている。

 

 

『単純な男』と『複雑な女』の悲惨なすれ違いの結末を僕は目の前で見ている。こんなのが人生かよと投げ出したくなる。

 

 

 

 

まだまだこれからという時間に僕たちの飲みは終わりを迎えた。田口さんは明日、男鹿半島に朝日を見に行くそうだ。海から登る太陽を眺めたいのだそうだ。そうした方がいいと思った。地球に顔を出したての新鮮な太陽に温められた方がいいと思った。心も体も。今は人間には近寄らないほうがいい。そうですよね?田口さん。

 

 

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あの日以来まだ田口さんとは会っていない。でもきっと田口さんは登る太陽に温められたはずだ。

でもそれは、海を見ている顔側ではなく、背中だっただろうけど。

 

 

 

 

男鹿半島は日本海!

朝日は昇りません!!

 

 

 

 

気づいていたけど、あのとき間違いを正す言葉を掛けれませんでした。ごめんなさいm(_ _)m

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。