ホントは とじぇね

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墓場まで持っていく話を聞いたら吐き気がした【妻編】 第三話

 正確には『まだ』と付いていたはずだ。

『まだ健吾のことが好きなの』

僕には完全に夫婦関係が破綻しているように思える内容だった。しかしまだ早苗の中には健吾に対する想いが残っているという。

 

※この話の続き

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「は?」

思わず僕はそう発していた。ここまで破綻した、破綻しているようにしか感じられない関係においてまだ、相手に対して気持ちがあるという意味なのか。

 

 

 

「どういう意味なの?」

今度はちゃんとした質問の形になった言葉を伝えた。伝えたつもりだった。

でも早苗が話し始めたことは、はたして僕の質問に答えたことになるのだろうか。

 

 

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窓の方を向いていた早苗は、運ばれてきた新たな烏龍茶を直接手で受け取り、店員に小さくお礼の会釈をし、直ぐに二口飲んだ。

目の前にあるポテトフライをつまみ、添えられてあるケチャップをディップし口に運んだ。

おちょぼ口で取り込み咀嚼している様を僕は見つめている。

 

改めてまじまじと早苗を見ると、やはり昔より老けていた。

最近メガネを新調した僕の視界は良好で、早苗の目尻の小じわや、老い特有の口元のしわまで見える。

 

僕と同じ歳の早苗。今年で43歳になる。

目の前にいる早苗の容姿が年相応のものなのか僕には分からない。

しかしながらギリギリ保ってるっていう感じがした。きっと髪が綺麗だからだろう。

真っ直ぐでツルンとしてて、キューティクルだっけ?とにかく光を反射していて凄く綺麗に見えた。

髪の毛一つで印象は違う。

良く手入れしているんだろうな。失礼だが近所で見かける奥さんたちとは全く違う印象を早苗に持った。

 

 

 

「健吾の浮気はこれが初めてじゃないんだ」

口に入れたポテトフライが無くなったのか、もしくは最後を流し込むためか、烏龍茶を一口飲んで、そのグラスを見つめたまま早苗はそう言った。

 

 

『浮気』と『不倫』

どちらかが、若しくはどちらも既婚者で『本気』になったら『不倫』であり、既婚、未婚問わず、遊びでパートナーを裏切ったら『浮気』という認識を僕は持っている。

きっとこの僕の認識は一般的なものとは違うのかもしれないが、その事を早苗に問うのは止めておいた。

 

 

 

グラスを見つめたままの早苗の話は、そのまま続いた。

 

地元を離れ就職した健吾。示しを合わせたように早苗も同じ町に就職することになった。

二人の間では、冗談混じりに同棲の話題もあったのそうだが、それは若い恋の最中の甘い甘い冗談で終わった。

準備も含め少し先に健吾は新しい街に住み始めた。一週間後に早苗も、自分のアパートに引っ越した。そのわずか一週間の間。その間に健吾は浮気をし発覚した。

 

「凄くショックでね。だから仕返ししちゃった」

 

『仕返し』の中身は聞かないでおいた。

「仕返ししちゃった」と言った時の早苗の笑顔が怖かったから。

少なくとも僕には『ショックで』仕返しした人の笑顔には見えなかった。

自分の行動を恥じた『はにかみ』ではなく、若気の至りと好奇心輝くキラリと光る笑顔のように僕には見えたから。

 

 

 

その時、浮気をした健吾は泣きながら謝罪し、早苗の仕返しを聞いてもなお、健吾は別れを切り出さなかったそうだ。もちろん早苗も別れるつもりなどなかったようだし。

 

その後、その事件の後、二人の愛は深まった。

早苗はそう言った。どんなことがあっても離れることはできないのだと、確かめ合うことができた出来事だったそうだ。

 

 

 

早苗の言う『愛』は歪んでいる。

僕は知っている。健吾の浮気の事じゃなく早苗の健吾に対する仕打ちを。

健吾に対する愛とう言葉でカモフラージュした『疑い』や『嫉妬』を。

 

 

 

 

早苗は健吾を監視していた。見えない時間まで把握しようとした。

確かに健吾が浮気をした事が原因なのだと思うし、そう思いたいのだが、早苗のそれは酷かった。

 

 

まだ健吾が独身の時。

健吾と飲んでいると決まって早苗から電話が来る。何やら申し訳なさそうに会話している健吾。

「いつ帰ってくるの?」

「いま、何やってるの?」

そんな事を聞かれるそうだ。

 

 

誤解しないでいただきたいのだが、男は自分の彼女や妻のことを外部に対して悪口を言ったりしない。少なくとも僕の回りの男性はそうだ。

 

 

何度か健吾と飲んでるうちに、あまりにも頻繁に繰り返し電話をよこす早苗の様を見て、健吾に僕が問い詰めて、やっと聞き出した事である。

 

 

結婚してからもそんな早苗の行動は変わらなかった。

仕事の接待で同行し飲み会に参加している健吾に対しても、何度も電話をかけ、決まって「いつ帰ってくるの?」という質問をぶつけるようだった。

 

健吾は徐々に付き合いが悪くっていった。

仕事の飲み会はどうだか知らないが、年数を経るごとに僕の誘いを断る頻度が増し、そして同じ町に住み、何時でもどこでも会える環境にあるはずの僕との付き合いも、年に一度がやっと。

やがて健吾は家庭に閉じ込められた。僕はそう感じていた。

 

 

 

 

過去の浮気の話をして、当時の感情を思い出したのか、はたまた連鎖的に不倫のことまで思い出しているのか分からないが、早苗は少し興奮していた。

その勢いのまま「私は離婚はしたくない」「だって大変なんでしょう?」

 

僕はこの質問に違和感を感じた。

 「健吾のことが好き」と言った割に、大変だから離婚したくないとも捉えられる表現。

とりあえず僕はその違和感を飲み込んで、離婚についての『大変』を経験した者として早苗に伝えた。

物理的に一番やっかいなのは、連帯債務になっている住宅ローンだ。そして最も重要なのは子供のへの影響。金銭的に精神的に。その未来に。

それ以外の本人や周囲の大人たちのことなどどうでもいい。身から出た錆。それ以上語ることは無い。離婚した本人たちが背負って生きていけばいい。迷惑をかけた全ての人の為に。

 

 

離婚についての具体的な話を聞いている割に、ポカンとしている早苗。

目の前の料理を食べながら聞いている早苗。

何度かスマホをチェックして、何やら返信していることまであった。

またしても違和感を感じた。だから言った。感じたことをそのままに。

 

「今日の話って結局何の話しなの?」

 

もういい時間だ。十年以上愛用している僕の腕時計は23時になろうとしていた。

会った時は神妙な雰囲気だった早苗の今は、4時間近くも経過して『普通』になっていた。まるでただ友達と食事をしにきた人のようだ。

 

確かに長い時間を使って言葉として他人に、自分の悩みを体外に発散し心が軽くなったからかもしれないし、さらには僕が共犯者じゃないってことを僕を見て理解できたからなのかもしれないし、本当のところは分からない。でも目の前にいる早苗はどこか軽やかに見えた。

 

「健吾の本心が知りたいの」

早苗はそう言って僕の目を見た。

三つ目の違和感だ。本心?本心ってなんだ?

 

 

今日僕に会い、現在の家庭の状態を伝え相談したことは健吾に伝える。だから近いうちに健吾から本心を聞いてほしいとのことだった。

健吾が今後どうするつもりなのか聞き出せってことんだろう。

現状をどのように捉えているのか気持ちを聞き出してほしいってことなんだろう。

とりあえず僕は早苗の申し出を、三つ目の違和感をそのように解釈することにした。

 

まぁ確かに現状の早苗と健吾は停滞している。感情や意地がぶつかり合い後にも先にも進めない状態。

僕にもあったからね。そんなときが。

 

 

 

 

ちょろちょろ頼み、ダラダラ食べて、ちびちび飲んだ会計は大したものじゃなくて。

見栄っ張りの僕は早苗がトイレに立ったすきに会計を済ませた。

 

 

申し訳なさそうにお礼を言ってくれた早苗は、なんだろ、、、時間帯のせいなのかとても艶っぽく見えて、一瞬友達の奥さんだってことを忘れそうになった。

 

階段を下りて店の外に出る。

目の前にはタクシーと代行車が並んでいる。駅前だというのにこの街は賑わいが無い。

ハザードランプの光が建物と僕たちを点滅させていた。

「こんな時間までごめんなさい」

そう言って早苗は僕とは反対方向へ去っていく。

歩道を歩く早苗には、一方通行と対行しているせいでヘッドライトが当たっている。

背中が黒く影になり体の輪郭が光の筋で浮かび上がっている。

停めているはずの駐車場への曲がり角を無視して直進していく早苗に対する四つ目の違和感はもう無視して僕は代行に声をかけた。

 

 

 

 

【妻編】おしまい

次は【夫編】第四話へつづく

 

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。