ホントは とじぇね

ホントは寂しがりやのシングルファザーが叫ぶ! 誰かに届け!誰かに響け!!

墓場まで持っていく話を聞いたら吐き気がした【妻編】 第一話

僕はきっと稀な体験をした。

夫婦二人のどちらもからも同じ内容の話を聞いたのだから。

妻、早苗(仮名)。夫、健吾(仮名)。どちらも僕の友達だ。

 

僕に持ち掛けられた『相談』はやはり離婚についてだったし、経験者の僕はきっと二人にとって、各々にとって心強い味方だと思ったのだろう。

 

 

 

 

 

 

着信に気づいたのは仕事も終わった夕方近く。

『夕方』とは何時を指し示す言葉なのだろう。さらには『近く』と付属されている。自分で書いておきながら意味不明ではあるが、それこそ、着信に気づいた僕は『?』と思ったし意味不明であった。

 

早苗(仮名)と知りあったのは高校の時。同じ高校だったのではない。健吾の彼女として紹介されたのがきっかけだ。要するに『友達の彼女』だった。

僕と健吾は大人になってからも親しくて、よく酒を飲んだ。早苗が同席するときもしばしばで、必然的に知り合いから友達みたいになったのだ。

健吾は酒に弱くて、だから彼女である早苗は心配した。連絡が付かなくなることもあるのだから。連絡が付かないのもそうだが、酔いつぶれた健吾は、友達の肩を借りて早苗の待つアパートに帰ってくるときもあり、飲みに出かける健吾への心配は、さらなる心配を生む。

いつだったか「迷惑かけるの申し訳ないから、何かあったら連絡して」と早苗が携帯の番号を教えてくれた。

仕事のストレスを僕にぶちまけた健吾は酔いつぶれ、僕がアパートまで送っていったときのこと。申し訳なさそうにしている早苗と携帯番号を交換した。

 

時を経て『友達の彼女』は『友達の奥さん』になった。

僕とは違い、健吾夫妻は一般的な年齢で結婚し、子供を授かった。

健吾と二人して遊んでいたころとは環境が違う。お互い家庭を持った。

二人して遊ぶことが少なくなり、そしてほぼ無くなった。

今では一年に一度か二度酒の席を共にするぐらい。

 

 

 

当たり前だが、早苗から電話が入ることはほとんどない。二人が結婚する前も、その後も。

そういえばある一時期だけ、健吾の所在を確認する電話が何度かあったな。

 

今回の着信はそれ以来だ。数年前以来。

何かあったのかもしれないと不吉な予感を感じながら僕は久しぶりに早苗に電話した。

病気か?怪我か?まさかそれ以上ってことは無いだろ。

 

「もしもし」と静かに電話に出た早苗。

スタバやファミレスで話すには時間が足りないと言うのだ。とにかく会って話を聞いてほしいというのだ。

僕にも経験がある。ファミレスなどで長話しとなるとせいぜい2時間ぐらいが限界。注文した品をたいらげて飲み物を注文しても、長居するには勇気がいる。どんどんと入れ替わる客。待っている客がいるのに、大した注文もしない客が長居するのは店の迷惑となるし、そのような目線をもらったことがある。

僕はチェーン店の居酒屋を指定した。居酒屋なら問題ない。ちょこちょこと注文し、ダラダラと食べ、ちょびちょびと飲む。そんな場所なんだから。時間を気にせず居座ることができる。

 

その電話から数日後、僕と早苗は初めて二人きりで会った。

バラバラに来て別々の駐車場に停め店の前で待ち合わせをした。何が言いたいかというと、普通に友達としてどうどうと待ち合わせをしたということ。

長話しを聞く絶好の場所は他にもある。『車中』だ。どこかの公園や海岸などがそれ。車を駐車できる場所であればどこだっていい。道の駅なんて最高だろう。トイレがある。絶好の長話しステーションだ。

でもさ、考えてみてよ。男女が車の中で二人きり。おかしいでしょ?怪しいでしょ?

いつ誰がどこで見てるか分からない。便利な世の中だもの、SNSで拡散なんてことになったら、善意の僕に悪意の目が向く。

 

現代の世の中は、人の相談を聞くにも一苦労ってこと。

色々気を使い居酒屋の指定をしたのは僕だし、きっとお酒を飲むのも僕だけで。だからお勘定は僕。他人の相談事を聞くのにも経費が掛かるってわけ。

 

 

 

 

平日の午後7時。空はまだ明るく、車通りの多い道沿いにあるそのチェー店は、系列のお店を併設させて入口が三つもある。

大学生のバイトらしき呼び込みが声を掛けてくる。

早苗より先に付いた僕は、店先に出されているメニューを見ていた。

「お好みのものはありますか?」

何でもいいのだ。目的は食に無い。

断る仕草の意味を込め、ちょこんとしたお辞儀をして、バイト君を退けた時、早苗はやってきた。

久しぶりに見る早苗は年齢より若く見えた。

女性の服装を表現する言葉を僕は持ち合わせていないが、スキニージーンズにカットソーを着て、その上に裾が長めのシャツを合わせている。赤いオールスターのスニーカーがアクセントとなり女性らしさを引き立てていた。

 

 

「すいません」

会うなりそう言って早苗は頭を下げる。

ここではなんだからと、どの店にするか早苗に聞くも、答えは予想通りで「まかせます」とのこと。

何も考えず自分の体に一番近い入口へ向かった。後ろではバイト君の「ありがとうございます。ごゆっくり」の声が聞こえた。

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テーブル席に通された僕たち。

直ぐにお通しが配置され、おしぼりを手渡される。

「とりあえずビール」と店員に注文し早苗を目で促す。

烏龍茶を頼んだ後、早苗は下を向いた。膝の上に抱えたバッグを見つめている。

 

 

絶対離婚の話だなと思った。この重苦しい雰囲気は他に考えようがない。

とりあえず僕は早苗が話し始めるまでじっとしていようと思った。

席の右側には窓がある。建物の二階にあるこの店の窓からは、大通りを一方通行で過ぎ去る車が見える。駅に繋がるこの道は、4車線の一方通行。

薄暗くなりテールランプの赤が目立ち始める時間だ。夜が来る。

 

アラフォー男女が向かい合い座っている。一方の女性が俯き動かない。

さて、飲み物を持ってきた店員は僕らをどのように感じるのだろう。

『訳あり』と思うのかな。それとも何も思わないのだろうか。人の感じ方はそれぞれであり、だからこそ良からぬ『誤解』が生まれる。

 

早苗に会うことになったとき僕は『良からぬ誤解』を一番に気にした。だからこそ、あえて僕はどうどうとオープンに人目に付きやすい店を選んだ。なんなら知り合いにばったり会って声でもかけてもらったほうがよほど気が楽だったかもしれない。

「いや、実はさ・・・・」とか小声で言って正当な理由を世界に発したかった。

 

 

最近テレビでは不倫の話が流れていた。超美人妻を裏切ったお笑い芸人の話題だ。

そんな世の中にありちょっと僕は敏感になっていたのかもしれない。

 

 

店員が飲み物を運んできた。

さてどうするべきか。まさか『乾杯』ではないだろう、どうみても。

目の前に飲み物が置かれても早苗は動かない。

 

マジかよ・・・俺から切り出すのかよ・・・・

 

ちょっとだけ、本当にちょっとだけイラっとした。話があると言ったのは早苗のほうで、僕は聞き役。話してくれなければ聞きようがない。

 

 

「まずさ、一口飲んで落ち着こうよ」

そんな風に声を掛けた。

コクリと頷いた早苗は烏龍茶を一口飲んだ。それを見て僕はビールを流し込む。

中ジョッキを半分飲みほし、その間に僕は覚悟を決めた。

 

いいよ。分かったよ。聞くよ。聞いてやろうじゃないの。

 

 

「何があったの?話してみてよ」そう早苗に声を掛けた。

 

 

「もう家庭がボロボロなんです。どうしてこんなことになったんだろ・・・」

 

敬語を混在させて話した早苗。僕との距離感を見事に表している。

昔は仲よく話していたが、最近ではほとんど会うことが無かった。時を経て距離が遠くなったのだ。

 

けっこう仲が良かったつもりだったから、早苗の『です。』に違和感と寂しさを感じた。友達の奥さんと仲がいいってことは、家族ぐるみってことで、僕が彼らにとって特別な存在であるかのように感じていた。

 

まあ実際、このような場面にお呼ばれされるのだから、僕が『特別な存在』であることは実証されたようなものだが。

 

 

「今は家庭内別居の状態でね、そろそろ先のことを考えないと子供たちが可愛そうで」

 

早苗は何故だかキツい目を僕に向けた。

それは何らかの覚悟をした目にも見えたし、迷っている自分に活を入れているようにも見え、ここから話が続くことを確信した瞬間でもあった。

 

 

この日、僕は4時間にも及ぶ夫婦の物語を聞くことになる。

そしてまた僕は『結婚』に落胆することになる。

 

づづく

 

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。