ホントは とじぇね

ホントは寂しがりやのシングルファザーが叫ぶ! 誰かに届け!誰かに響け!!

墓場まで持っていく話を聞いたら吐き気がした【夫編】 第五話

「そもそも俺たちは、ずっと前から破綻していたんだ」

「結婚なんて出来る関係じゃなかった・・・」

 

僕の顔を見ていた健吾は再び目線をテーブルに落とした。

僕の後ろに座っている隣の席の客の笑い声が下品で僕は健吾から目線を外し、少し振り返った。小さく舌打ちして直ぐに向き直ったとき、そこには涙をこらえている健吾がいた。

 

 ※この話の続き

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「今の早苗は、俺の知っている女じゃない」

「優しかった早苗はもういない」

 

話が飛ぶ。目の前に僕がいるのに健吾は、独り言を言っているかのように何個か言葉を吐き出した。

まだビールは二杯目だ。酔っている訳じゃない。だから心配になった。これはかなりヤバいと思った。今の健吾は精神的に弱っている。間違いなく。

早苗の束縛のせいで健吾は多くの友達を失った。だからきっと相談する人さえいなかったんだと思う。まして家庭の事情なんてそうとう信用のおける人にしか話すことはできない。人は他人の不幸をどこか、喜ぶ癖があるようだ。簡単に他人に家庭の事情なんて話せるもんじゃない。

幸いにも僕はそのような人種じゃない。気が済むまで話してほしい。健吾の不幸は密の味じゃない。健吾の顔を見ているだけで、その雰囲気だけで心が痛む。離婚に悩むってことは身を切るような痛みと苦痛を伴う。僕は経験者だ。だから、だらか役にたてることがあるなら、何でも言ってほしい。

今の僕にできる事。それは健吾の話を全部聞いてあげる事。健吾の体の中に溜まったモヤモヤを全て外に吐き出させてあげること。

 

「ちょっと落ち着こうか」

僕はそう言って、ウーロンハイを二つ注文した。

いつの間にか来ていた馬刺しユッケをチビリと食べている健吾。枝豆を口に運ぶ健吾。それを最後のビールで流し込む健吾。

僕らは少しの間、無言だった。周囲はガヤガヤと賑わっていて、みんな幸せそうで。

斜め前に座るカップル。互いに歯を見せ合って笑っている。

どこからか聞こえる子供のはしゃぐ声。手際よく働く店員の姿。店内の照明の白い光さえ世界の『幸せ』を作り上げている一部のように見える。

離婚してしまった僕。離婚しようとしている健吾。この二人にはなんだか場違いな場所のように感じられた。

 

 

店員が運んできたウーロンハイを健吾は直接受け取った。ちょこんとお礼の会釈してそのまま一口飲んだ。

どこかで見た光景。すぐに思い出した。先日の早苗だ。

駅前のチェーン店の居酒屋で早苗も同じことをしていた。別に珍しい行為ではないが、なんだか似たもの夫婦って感じがして、離婚話の時だからこそ、なんだか切なかった。

 

 

 ここから健吾の話がノンストップで30分ぐらい続いた。

 

結婚前に自分が浮気をしたこと。その行為に早苗は浮気して仕返ししたこと。

そこから互いに信用できなくなり、束縛し合ったこと。

束縛し合っているうちに、自分の行動を制限されていることが辛くなった。

もっと自由に行動したい。友達と遊びたい。気兼ねなく仕事をしたい。必要な残業だって飲み会だってある。もう浮気なんてするつもりも無いのだからそのことを分かってもらいたい。

とにかく健吾は不自由だった。何をするにもどこに行くにも早苗に報告し許可を取っていたから。挙句の果てには電話攻撃で逐一行動をチェックされる。

一緒にいる人に対してとても恥ずかしかった。もうこんなことは止めて欲しい。

自由に楽しく信頼関係をもって早苗と生きてゆきたい。

互いに束縛し合っていく中で健吾はそう思うようになった。だから健吾は早苗に対する束縛を止めた。

早苗が出かけても電話もせず何をやってきたかも質問はせず、「お帰り。楽しかった?」と普通に接し、早苗が出かけても疑いや嫉妬のないことを行動で伝え続けた。そうしていればいつか早苗も自分に対して同じようにしてくれると思った。自由に人間らしい行動ができる楽しさや気楽さを知ってもらえば、早苗の凝り固まった考えも変わってくるだろうと。

 

そうしているうちに長女の妊娠を迎える。これ以前から早苗は友達と出かける事が多かった。そのことを微笑ましく感じていた健吾。『もう俺は疑ったりしていないよ』と行動で伝え続けた。妊娠中に朝帰りすることもあった早苗だが。そのことにだって文句も言わなかった。しかし早苗の束縛は一向に終わることが無かった。

『自分だけ・・・』いつしか健吾はそう思うようになる。早苗だけ自由に気ままに出かける。自分には友達すらいなくなってしまった。

このとき早苗とよく遊んでいたのが後に、健吾の不倫相手になる女性だ。

早苗に怒りさえ感じていた時期に健吾は理想の女性に出会った。やがて健吾の心は徐々にその女性に惹かれていく。

そして仕事の飲み会の途中。早苗からの束縛電話に対応しようとトイレに向かった先で健吾は、早苗の友達であり理想の女性である人とばったり鉢合わせすることになった。

 

 

ここまで一気に話した健吾は、ウーロンハイを全て飲み干した。

正直言ってくだらないなと思った。言葉には出さなかったけどね。

男と女の間にある空気みたいなものは、その二人にしか分からない歴史から作られていて、それが夫婦ともなると生活も伴い独特の関係性に発展していく。犬も食わない夫婦喧嘩も他人から見れば笑いごとだが、当事者にとっては真剣な争い事なのだ。

 

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このお店に来て1時間ぐらいは経過しただろうか。僕はあることに気づいた。

焼き鳥が無いのだ。焼き鳥屋に来たというのに一本も注文していない。

はて、、、この状況で『焼き鳥』というポップな響きの食べ物を注文していいものか。

健吾に「焼き鳥、何にする?」なんて聞いていいものか。。。

 

健吾の話がくだらなすぎて、さっきまで心配していた僕の頭の中に【焼き鳥】という邪念が入り込んできた。

 

焼き鳥の種類を確認するためにメニューに手を伸ばそうとしたとき、「ちょっとこれ見てくれよ」と健吾が僕にラインを飛ばしてきた。

 

そこには驚愕の画像が貼られていた。

 

つづく

 

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。